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自己査定とは(その2)

債務者区分のポイント

銀行にとって、自己査定をするときの最重要ポイントは何か、というと、③の破綻懸念先をどうやって判定するか、ということに尽きるのです。
実質破綻先よりも悪い債務者は法的に破綻している状況(又はそれと同様の状況)であるため比較的判定しやすいのです。正常先も特に問題はないため判定は容易です。

ところが、それ以外の貸出先については、要注意先に該当するのか破綻懸念先に該当するのか、非常に判断がつきにくいのです。このことは、銀行の 貸倒引当金計算に重要な影響を及ぼしています。

なぜなら、前述したように、要注意先と判定されれば一般貸倒引当金として予想損失率による引当をするのですが、破綻懸念先と判定されれば個別算定となることから、引当金額に大きく差がでてしまうからです。

債務者区分のポイント:設例

もういちどここで具体的な数値例を挙げてみましょう。例えば貸出先F社にたいして、G銀行は1億円の貸し出しをしていたとします。
G銀行が貸出先F社を要注意先と判定したとしましょう。その際の要注意先の予想損失率が0.5%だったとすると、1億円×0.5%=50万円となり、貸倒引当金は50万円となります。この点は前述したとおりです。

貸出先F社が破綻懸念先だと判定されたらどうなるでしょうか。破綻懸念先の個別貸倒引当金は個別に算定することとなっていますから、貸出金1億円から担保・保証によって回収されると見込まれる金額を差し引いた金額が、貸倒引当金となるわけです。

担保・保証が時価8000万円と仮定した場合、1億円から8000万円を差し引いた2000万円が回収不能見込金額として個別貸倒引当金となります。担保・保証の時価が低ければ低いほど、貸倒引当金の設定額は大きくなってしまうわけです。

上記の例はあくまで仮定の数値ですが、いずれにせよ、ある貸出先が要注意先なのか破綻懸念先なのかの判定は非常に重要となることは明白です。

参考までに、要注意先・破綻懸念先とも特殊な事情がない限り、その債権は税務上一括評価金銭債権であるため、法定繰入率1000分の3を超える部分は有税引当です。貸出先A社が破綻懸念先と判定された場合、企業会計上の個別引当金設定額2000万円は当然繰入額として費用計上するのですが、これに対応する税務上の貸倒引当金繰入限度額(損金として認められる額)は1億円×1000分の3=30万円となり、差額の1970万円は税務上の損金にはならないことから、法人税だけは負担しなければならないこととなります。

まとめます。ある融資先が破綻懸念先に落ちると、

・貸倒引当金の積み増しが必要となる
・そのため銀行の利益が減少する
・利益が減少するが積み増し分は課税所得を構成する
・課税所得を構成するため法人税がかかる
・税引き後利益も減少する
・原則として当該融資先に新規融資ができない
ということになってしまいます。要注意先と破綻懸念先では雲泥の差ということです。

債務者区分の判断基準

では、債務者区分はどのような基準で判別していくのでしょうか。この判断基準の要素が、「財政状態」と「延滞状況」なのです。
「財政状態」とは、たとえば単年度赤字・連続赤字・借入過多・債務超過などをいい、「延滞状況」とは融資条件変更・延滞月数などをいいます。

一般的には、次表のような財政状態と延滞状況を判断基準とした債務者区分の相関表により判定されます。

延滞状況
財政状態
延滞なし
3ヶ月以内延滞
3ヶ月超6ヶ月
以内延滞
6ヶ月超延滞
債務超過
(2期連続)
破綻懸念
要注意
破綻懸念
要注意
破綻懸念
実質破綻
債務超過
(1期のみ)
要注意
破綻懸念
要注意
破綻懸念
要注意
実質破綻
赤字または
繰越損失あり
要注意
正常
要注意
要注意
実質破綻
債務超過・赤字・繰越損失なし
正常
要注意
要注意
実質破綻

この相関表も、各銀行独自で設定しています。

たとえば、この例の相関表で考えると、債務超過であれば延滞がなくても破綻懸念先とされるケースも出てきます。赤字であれば、それだけで要注意先とされてしまうということになるのです。

私が信用金庫監査の初年度に出会った衝撃のフレーズ「債務超過・延滞なし」というのは、この債務者区分を判断するうえでの基準に照らして、債務者がどの位置にあるかを金庫が判定していたときのフレーズだったのです。

「債務超過であるが延滞はないので、破綻懸念先ではなく要注意先と判断した」

ということを意味しているフレーズなのです。この相関表も、各銀行独自で設定しています。

自己査定の基準は銀行が独自で設定する

貸出金の自己査定とは、「銀行が自ら、自己に基準に基づいて」、自社の貸出金を査定することです。では、それはどんな基準であってもよいのでしょうか。

じつは、「金融検査マニュアル」で、そのあたりもしっかり記載されているのです。債務者区分の判断基準も、そこにちゃんと書かれています。したがって、銀行が独自に設定した自己査定基準も、検査においてそれがミニマムスタンダードを満たしているかどうかについて、チェックされるようになっているのです。

ただし、書かれてあるとはいえ、実際に自己査定作業を行っていく段階では事実認定の世界に入っていくわけで、したがって、自己査定基準上、判断基準となる数値基準を設定していることが多いと思われます。

貸出金の自己査定は全件やるのか?

さて、銀行は自社の融資先全件について、このような自己査定作業をやっているかというと、実はそうではありません。とてもじゃないですがそんなことは不可能であるし、効率的ではないのです。

全件できないからといって、サンプルでやっても仕方がありません。というわけで、自己査定作業を実施する融資先を、独自の基準で抽出する工程があるのです。その基準を一般的には「抽出基準」といわれています。

どういうところが抽出されるかというと、先ほどの相関表で判断基準となるような情報、たとえば赤字や債務超過の融資先・業績の急激に悪くなった融資先・条件変更を行った融資先など、銀行がそれぞれ設定した「一定の条件」に合致した融資先のみをシステム上で抽出し、それについて査定をすることとなるのです。

システムで抽出されるということは、当然、査定の俎上に上がることを意味しています。たとえ正常先であっても、抽出されることはありえます。逆に、抽出されない融資先はすべて正常先として判断されることを意味しているのです

俎上に上がるということは、その融資先を査定することであり、そのための時間と労力と説明資料が必要となってしまいます。

したがって、銀行の得意先係にとっては、自分の担当する先が抽出されないのがベストということになります。抽出されない一番の方法は、すくなくとも決算書上で黒字になっているということ。たとえ不良債権がそこに存在していたとしても、です。

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